この手法をもとに、まずステップ1として海馬のスライス培養標本のニューロン内にカルシウム蛍光
指示薬を注入し(画像3)、多くのスパインからの蛍光変化を高感度CCDカメラにより同時に記録する
ことで、「どのスパインが、いつ、どんな入力を受けたのか」を調べた。
従来は数個のスパインを観察するのが限界だったが、「大規模スパインイメージング法」により、
同時に数百個ものスパインからシナプス活動を計測することができるようになった。
これは過去の記録を2桁更新するもので、これにより、広い範囲のシナプス活動を、時間を追って
観察することができるようになったという。
シナプス活動を観察したところ、近傍のスパインがしばしば同時に活動していることが判明。
統計解析を行った結果、8μm以内の近接スパインが有意に同期活動しやすいことが見出された。
この現象は、世界で初めて確認されたものであるという。
この空間的に集まった同期活動を「クラスター入力」と呼ぶが、同入力は、海馬スライス培養標本の
みならず、生体内の大脳皮質でも確認できたことから、海馬だけの特殊な現象ではなく、脳部位を超
えて広く観察される現象であるという考えである。
なお、クラスター入力を生むためには、神経回路はシナプスレベルで正確に編まれている必要がある
(画像2・左)。観察の結果、クラスター入力を受けるスパインは、そうでないスパインに比べて大き
いことが確認された。
スパインの大きさは、LTP(シナプス可塑性の一種で記憶の素過程と考えられている)を経験したかど
うかに関連するほか、シナプス結合の強さとも相関していることが確認され、このことからクラスタ
ー入力はLTPの結果として生じていることが示唆された次第である。
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